タナカ マサヒロ   TANAKA, Masahiro
  田中 将裕
健康科学部 リハビリテーション学科
助教
発表年月日 2022/09
発表テーマ 新型コロナ感染症(COVID-19)拡大による高齢者の活動変化と健康指標との関連
発表学会名 第56回日本作業療法学会
主催者 日本作業療法士協会
学会区分 全国学会
発表形式 口頭(一般)
単独共同区分 共同
国名 日本
開催地名 京都府京都市
開催期間 2022/09/16~2022/09/18
発表者・共同発表者 ◎上村純一、谷利美希、田中将裕、水野純平
概要 【はじめに】COVID-19 の拡大により,地域在住高齢者の日常生活は大きく変化した.特に,日頃行っている活動の自粛は,身体,精神,認知機能への負の影響が指摘されている.しかし,実際の活動変化を網羅的に検討した報告は少ない.作業療法では人の作業を健康決定因子の一つとして強調しており,活動変化の程度と健康との関連を明らかにすることは重要な意味を持つ.本研究の目的は,1)COVID-19 に対する行動自粛による活動変化の状態を把握する,2)活動変化と健康指標との関連を明らかにする,ことである.本研究は,今後の高齢者を対象にした作業に基づく健康支援(occupation-based health approaches) のための知見を提供するものである.
【方法】A 県の 2 市で実施されている健康増進事業および老人クラブに参加している 65 歳以上の地域在住高齢者を対象にアンケート調査を行った.調査は,2020年8月~2021年2月に実施した.研究デザインは横断研究とした.調査内容は,活動実施状況 (Activity Card Sort-日本版: ACS-JPN),主観的健康観 (SF-8),抑うつ (Geriatric depression scale-15),フレイル (簡易フレイルインデクス),および対象者属性 (性別,年齢,同居者,就労の有無,居住地) であった.活動実施状況は 4 領域 (IADL,低負荷レジャー,高負荷レジャー,社会活動),72 項目の活動について,日頃の活動状況について「現在」と 2019 年 (COVID-19 拡大前) とを比べて一番当てはまる状況を 5 件法 (「回数が変わらない・増えた」「回数が減った」「全く行わなくなった」「新しく始めた」「行った経験がない」) で回答を得た.調査時の活動数をコロナ前 (2019年) の活動数で除して活動保持率を算出した.4 領域の活動保持率と主観的健康観(身体,精神),抑うつ,フレイルとの関連を検討するため,対象者属性を補正した上で,正準相関分析を行った.調査対象者には紙面にて研究説明を行い,アンケートへの返却を以って同意がなされたとみなした.本研究は所属機関の生命倫理審査委員会の承認を得て実施した (承認番号:20190097-2,20-603).
【結果】240 件の回答を得て,無効回答を除いた 163 件を解析対象とした (有効回答率 56.6%).対象者属性は女性 119 名 (全体の 73.0%),平均年齢 79.6±5.7 歳,独居 64 名 (39.3%),有給労働 17 名 (10.4%),A市居住 102 名 (63.2%) であった.72 の活動項目の活動保持率は 73.7%であった.4 領域の活動保持率から合成された第1正準変量を「活動保持」,主観的健康観(身体,精神),抑うつ,フレイルから合成された第1正準変量を「健康指標」とそれぞれラベル付けした.2つの第1正準変量間の相関係数 (正準相関係数) は 0.48 であった (p < 0.0001).正準負荷量から,「活動保持」には IADL (0.68),社会活動領域 (0.56) の活動保持率の影響が強く,「健康指標」には主観的健康観 (身体: 0.61, 精神: 0.78) が正の方向,抑うつ (-0.45),フレイル (-0.41) が負の方向に影響が強かった.
【考察】COVID-19 拡大に対する行動制限により,地域在住高齢者の活動は約 3 割減少していることが明らかとなった.また,活動保持は健康指標と正の相関関係にあることが分かった.つまり活動を強く制限している(されている)高齢者は,主観的健康観が低く,抑うつ,フレイルの指標が高くなる関係が示された.本研究では両者の因果関係には言及できないが,COVID-19 の拡大による身体的活動量の減少や抑うつの増悪が先行研究でも指摘されている.今後の地域在住高齢者の生活および健康維持に向けた occupation-based health approaches の必要性が示唆された.